2015年6月26日金曜日

薔薇窓


作詞:来生えつこ
作曲:来生たかお
編曲:鷺巣詩郎

奈保子さんが驚くべき声の「チューニング能力」をお持ちであったことは、これまでも何度か触れてきました。私が特に好きなのは、奈保子さんがアコースティック楽器に声を「チューニング」したときの響きです。大まかに言えば、アコースティック楽器の良さは、“肌触り”のやわらかさと、響きのグラデーションの豊かさにあります。そこに奈保子さんの声が合わさると...ひとつの「奇跡」が起こるわけですね。

一般に歌詞カードには、曲ごとに、演奏で参加しているミュージシャンがクレジットされています。当然、それでバンドの編成も分かります。奈保子さんの時代(特に初期から中期にかけて)の基本的な編成は、ドラムス、ベース、エレクトリック・ギター、キーボード、ストリングスで、ここに曲によってさらにアコースティック楽器(例えばフルートやクラリネットといった木管楽器、トランペットやトロンボーンといった金管楽器など)が追加されていたようです。

上述の一般的な編成でも、奈保子さんはアレンジの特徴や色彩を瞬時に感じ取り、それに声を「チューニング」していきますから、奈保子さんが例えばストリングスやピアノやアコースティック・ギターに声を合わせる時、私たちはとても幸せな時間を過ごすことが出来ます。

それをさらに押し進め、「アコースティック楽器ばかりの伴奏だったら、奈保子さんの声はどのように響くのだろう」という関心に答えてくれるのが、20歳記念のアルバム「It's a beautiful day」に収められている「薔薇窓」です。

ただし、このアルバムには演奏者のクレジットがないため、正確な楽器の編成は私にはわかりません。しかし、ベース(ウッドベースではないですね)以外は、ストリングス、ブラス、ピアノ、ドラムス、パーカッションで、ほぼすべてがアコースティック楽器の伴奏と言えそうです。

さあ、曲を聴いてみましょう。ストリングスによる羽が宙を舞うような軽やかな導入の後、ブラスとベースが優雅なステップを踏んで、そこに、完全にアコースティック楽器の響きにチューニングされた奈保子さんの声が入ってきます。

  レースのハンカチ てのひらで
  少し汗ばみ 酔いがまわってきたわ

何という艶やかさ、甘さ、きめ細やかさ。
無限の階調と薔薇の香りを宿す歌声。
そして、夜の深さが演出する心地よい陶酔。

大げさなこと言うようですが、私はこれを「奇跡」と呼びたいです。

もちろん、おおもとの曲がそう書かれているから、と言えばその通りです。来生たかおさん&えつこさんは、貴腐ワインのような香りと甘さを湛えたこの曲を作って、奈保子さんへの20歳の誕生日プレゼントとしました。奈保子さんは楽譜を見た瞬間から、「こう歌いたい」と思ったに違いありません。しかし、奈保子さんは、私がみたところ、天性の「アンサンブル・ミュージシャン」なのです。周りの演奏者たちが作り出すサウンドに、自らの声を合わせてゆくタイプ。「薔薇窓」もこういうアレンジ、すなわちアコースティック楽器の響きを重んじたクラシカルなテイストのアレンジでなければ、ここまで艶やかに、甘くは歌えなかっただろうと思うのです。

裏を返せば、奈保子さんの声を生かすも殺すもアレンジ次第ということになります。上のメニュー「奈保子さんの声」で詳述しましたが、後期の奈保子さんは、エレキ系のソリッドなサウンドに合わせるためでしょう、地声っぽい声に変わりました。それはそれで、当時の奈保子さんやスタッフの方々が選んだ道ですから尊重すべきとは思いますが、私には「薔薇窓」の声のほうがはるかに貴重で、他には求められない資質に思えるのです。

1 件のコメント:

  1. 初めて聞いたんですがアコースティックなジャズサウンドで心地よいです。奈保子さんの好きな曲リストに入れておきます。

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